本年度は、「持続可能な開発」概念(およびその萌芽的概念)の多義性に注目し、ストックホルム会議、リオデジャネイロ会議、ヨハネスブルグ会議をはじめとする国連主催の会議や国連下部機関(国連環境計画や持続可能な開発に関する委員会)での議論に着目し、同概念の変遷について検証した。特に本年度は、国際裁判に注目し、GATT/WTOのパネルおよび貿易と環境に関する委員会、さらに国際司法裁判所の判決(ガブチコボ・ナジマロシュ事件)における同概念の解釈を検討した。前記事件に関して、訴訟に深く関わったPhillip Sands教授(ロンドン大学法学部)より、判決の結果だけでなく、訴訟の経緯についてもさらに詳しく検証をおこなわなければならないとの重要な示唆を受けた。さらにMOX事件など、新たな国際裁判に関する評価についても検討する必要がある。現時点では暫定的な分析に過ぎないが、持続可能な開発は、当初想定されていた概念からさらに人権や経済開発を包摂した極めて多様な統合概念として認識されつつあると考えられる。 また、地球環境条約の制度的特徴を明らかにするために、締約国会議を中心とした実施メカニズムについて検討した。特に締約国から提出される年次報告書の審査制度について基本的な論点を確認すると共に人権条約など既存の実施メカニズムとの相違点を明確にした。さらに遵守手続に関する従来の学説の変遷について、モントリオール議定書と京都議定書の採択過程に留意しつつ検証し、特に国家責任法と条約法との交錯についてなお残されている課題について分析した。
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