本年度は、基本的な文献資料の収集・読解に重点を置いた。 「事実上の国際政府」という概念については、それに触れる文献は少なからず存在するものの、これを包括的に論じたものはほとんどない。したがって、19世紀来刊行された主たる体系書をまずは時系列的に丁寧に読み進める作業によるほかなく、当初から予期されたことではあるが、この一年で何らかの明確な展望が得られるには至っていない。しかしながら、このような地道な方法以外に手段はないものと思われるため、来年度もそれを継続して少しでも進捗させるよう努力する。 上記の作業に並行して、逆に、21世紀の今の時点から時代を遡る作業も行っている。とりわけ9.11後のアメリカ合衆国の一方的行動への傾斜から、「唯一の超大国・派遣国・世界帝国としてのアメリカ合衆国」についての検討が国際法の分野においてもなされるようになっており、そのような研究がどのような視点に基盤を置きつつなされているかを理解することによって、上記の歴史研究をより現代にrelevantなものにすることができると考えている。 同時に、事柄の性質上、対象文献を国際法に限定することは不可能であり、国際政治学・国際関係論、さらには哲学・政治思想の観点から「世界帝国」を扱った文献も渉猟している。これも、政治学や哲学の研究をすることが目的なのではなく、上記の歴史研究をするための視座を得ることをねらいとしている。
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