本年度も、昨年度に引き続き、基本的資料の収集・読解に重点を置いた。昨年度に19世紀に刊行された基本的な体系書を丁寧に読む作業に取り組んだことを受け、今年度は、その作業と継続すると共に、20世紀に刊行された文献も読み進むようにした。昨年度の報告書でも述べたように、この作業が短期間で明確な成果を生むことは当初から期待しておらず、精密にテキストを読み進む作業を続けるほかない。 このように、先の見えない作業であるため、方向性を見失ってしまったり、あるいは自己満足的に古典を読むに終わってしまうことが危惧される。そこで、古典的文献を読む作業と並行して、ごく最近の事例で「事実上の国際政府」論と関連するであろう問題を含むものを採り上げ、国家実行の分析を行うと共に、それが生ぜしめた"le pouvoir de dernier mot"あるいは"the right of last resort"概念について、理論的な検討を加えた。 また、これも昨年度に引き続いて、国際政治学・国際関係論、さらには哲学・政治思想の観点から「世界帝国」を扱った文献も渉猟している。イラク戦争以来よく見られる議論であるが、それに限らず、世界史的観点から問題を扱った文献を読み、国際法の歴史研究をする上で何らかの方向性をつかむ手がかりを得ようと努力している。
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