今年度実施する筈であったアジア各国の補助金制度の実態調査は、サーズ、テロ懸念その他の理由によって出張を見合わせたため次年度に延期することとなった。その代わり、理論的な観点からアジア地域における補助金政策および規律と極めて密接な関連性を有する重要な法概念として「競争」を取り上げ、3つの具体的視点から研究を行った。 1.競争法の整備:アジア地域において「競争」の価値はかなりの程度共有されていると評価でき、現在、かつて様々な法規制の対象とされてきた領域に競争を導入する法改正の動きや、包括的な競争法を制定する動きが急ピッチに進められている。ただし、「競争」概念はそれ自体多義的であり、競争法の整備およびそのエンフォースメントにおいては各国の経済発展段階や社会制度その他の諸事情によってさまざまな様相を見せている。 2.国内規制改革:上記とも関連するが、各国の国内規制改革は広義の競争政策の一部としで進められつつある。ただし、個別セクターにおける補助金政策その他の産業政策は、経済発展を市場メカニズムの機能に委ねる競争政策とは少なくとも短期的には緊張関係をはらむ場合がある。公共選択論的な理解からは単なる既得権益の保護に陥るリスクはかなり大きく、経済合理性(動態的な意味も含む)が担保される形で産業政策が実施されることが必要となる。 3.市場アクセス(通商政策):ガット・WTOの下で貿易自由化が進み、国家規制による貿易障壁は相当程度低減されたが、私企業による障壁(反競争行為)や国家規制産業または国営企業による市場アクセス阻害は、近年大きな問題として注目される。現在、貿易と競争という観点からOECDやWTOで多国間競争条約の可能性について議論が進められており、二国間協力協定、地域統合協定中の競争条項と並んで、競争政策のグローバル化への動きが活発化している。
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