今年度は、失業者に対する雇用保障法の転換を年金改正とかかわらせて日独の比較分析をおこなった。主として、わが国については、近年、若年者の雇用の非典型化ないし無業化がきわめて大きな問題になっている。これは、社会保障法においては被用者保険法の非適用対象の若年化となることを、研究者との意見交換や実務家への聞き取りを通じて明確化できた。他方で、ドイツ法の分析については、聞き取り調査をした(2004年9月)。そこでは、2003年からの労働市場改革の最終段階をむかえた2004年12月に失業扶助と社会扶助が統合され(ハルツ4)、失業者に対する基礎保障法等が成立した(社会法典2編、12編)。基礎保障法の意義についてドイツの研究者と有意義な意見交換をし、2001年年金改革から労働市場改革にいたるまでのドイツ社会国家の失業規制の転換・混迷を認識することができた。今年度の研究から、失業者及び被用者保険法の非適用雇用者である市民が労働関係や家族関係を媒介とし人格を自由に展開するには、基本権の前提条件を創出し、確保する義務が国家にかされることが明らかになった。こうしたドイツ法を手がかりとした成果は、来年度の前半に論文として公表することを予定している。 さらに、失業労働者や低賃金労働者への社会的保護を検討対象とするには、労働市場への国家のありようだけではなく、家族に対する特別な保護も無視することのできない論点であり、これらについての検討にも着手した。もっとも、「活性化する国家」または「労働市場での市民の自由を支援ないし促進する国家」について、求職者の活性化政策のみならず、家族の保護をめぐる判決・学説が急に展開し、さらに詳細で慎重な研究が必要となった。この点については、来年度に継続して研究をすることにしたい。
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