労働社会が急激に変容していることはわが国でもすでに指摘されている。本研究は、ドイツ法を手がかりにしながら、労働の変容が影響を与える被用者保険法の規範的分析をおこなった。主たる課題は、第1に、労働関係が多様化し、失業を経験することも労働者にとって標準になればなるほど、被用者保険法の正当化が問題になる。そこで、社会保障の権利主体を、労働関係や家族を積極的かつ主体的に形成する自由権の主体として把握し、自由権の主体が人格を発展させるための制度的条件を、国家が「労働」にかかわりどのように整備するべきであるのかを考察することである。第2に、非典型雇用の拡大を直視すれば、わが国でも、被用者保険法の適用が除外される雇用に対する国家規制の必要性を明らかにすることである。第3に、規制対象の主体を、市民一般とするのか、労働者とするのか、という権利主体の人間像である。本研究の成果は、昨年度のドイツ聞き取り調査を踏まえ、成果を論文としてまとめたが、要点は次の通りである。第1に、安定した被用者保険法適用雇用は変容しているが、「社会保険法からの逃亡」には一定の歯止めがかかっている。なかでも、被用者保険法適用の除外が女性に対する間接差別であるという司法判断は注目される。第2に、「ドイツモデル」は、これまで被用者保険を中心とした社会法体系として具体化されてきたが、2001年年金改革法をはじめ、ハルツ4法による労働市場改革を経て転換した。失業者に対する事実上の基本権侵害ともいえる自立の強制なども社会問題化しており、連邦憲法裁判所をはじめとして、訴訟が多く提起されることが必至である。議論の行方を追わなければならない。
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