研究概要 |
本年度においては,まず,前年度に引きつづいて,諸外国の議論を参考にしつつ,企業組織に属する個人の不作為に関して生ずる刑事責任の根拠及び限界についての基礎理論的研究に基づいた,具体的・現実的諸問題-薬害における製薬企業の構成員の刑事責任,監督官庁に属する公務員個人の刑事責任,インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)の刑事責任等についての検討を進めた(補助金は,主としてそのために必要な文献・資料の購入費・複写費に当てた。また,本年度においても,研究成果について他の研究者による客観的評価を得るために、他の研究者と共同して行う研究会に参加し、集中的な議論を行った。)。 特に,近時,社会的にも大きな関心が寄せられているプロバイダによる不作為責任の所在と限界については,欧米諸国における諸事例,関連する文献資料,及び同問題に対する諸国の立法的対応についての資料を集中的に収集・検討し,今後,わが国における同問題への取り組み方を考えるための示唆をある程度得ることができた。 以上の検討を行った結果,わが国における刑法学を支える基礎的な理論が,今後,これらの問題に対して有効な解決策を提示していくために,一体どのような変容・進展を必要としているのかという点について,一定程度の視座を得ることができた。そこで,研究期間の後半においては,これまでの研究の総まとめとして,今後生じることが予想される具体的諸問題の解決を視野に入れた基礎理論的問題-作為義務論・過失犯論の再検討を行った。 以上の成果は,今後,一つの論文として取りまとめ,所属研究機関の紀要等で公表していきたいと思う(所属研究機関の紀要である「学習院法学会雑誌」などを予定)。
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