研究概要 |
わが国では,これまで,刑事司法は,本質的に取引とは相容れない領域であるという考え方が、暗黙の前提とされてきた。しかしながら,アメリカやヨーロッパ諸国の状況を見れば,これは必ずしも自明のことではない。そして,最近では,わが国でも,様々な観点から刑事手続の中に取引的な処理を導入すべきであるとの意見が主張されるようになっており,その意味で,現在は,この問題を正面から検討すべき時期にきていると思われる。 他方で,わが国では,この問題がほとんど議論されてこなかったため,研究の素材が非常に限られており,その理論的,実際的問題点を検討するにあたっては,刑事事件における取引が日常的に行われている諸国,とりわけアメリカの状況を調査・検討することが不可欠の前提となる。そして,その際には,文献から得られる知識だけでなく,実務家等へのインタビュー等を通じて,実務の運用を知ることが必要である。幸いにして,本研究の初年度に当たる平成15年度は,9ヶ月余りにわたって,カリフォルニア大学バークレー校において在外研究を行う機会を得たため,その期間を利用して,刑事事件の取引的処理に関する文献調査を行うとともに,特に,成人による事件と少年による事件との違いという点に着目して,現地の実務家にインタビューを実施した。 それを通じて,アメリカでの取引的処理は,一般の刑事事件だけではなく,少年事件でも広く行われていること,しかしながら,少年事件の場合には,その対象が犯罪事実に限られており,処分の内容には及んでいないため,処分の決定にあたって裁判官が広範な裁量を有しており,そのことが,刑事裁判所と異なる少年裁判所の特色を基礎付ける要素となっていること等が明らかになった。
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