本年度の研究実績の概要は、以下の通りである。 第一に、状況証拠による事実認定が問題となった具体的刑事事件(和歌山カレー事件、北陵クリニック事件、恵庭OL殺人事件、東住吉事件等)について、物証もしくは鑑定資料の真正性、間接証拠から間接事実の認定、間接事実から間接事実もしくは主要事実の推認、そして総合評価という一連の証拠の構成プロセスの実態的検討を行った。 第二に、証拠の構成プロセスという本研究のテーマと構想とについて、現役裁判官や裁判官経験者から実務経験を踏まえた助言や意見を聴取し、また研究者から理論面についての助言や意見を聴取した。 第三に、アメリカ合衆国イリノイ州シカゴにあるノースウェスタン大学ロースクールに附置されているCenter on Wrongful Convictions (以下CWCという)を訪問し、Executive DirectorであるRob Warden氏から、イリノイ州における誤判問題についてインタビュー調査を行った。CWCは、誤った有罪判決を明らかにし正すための活動を行っており、ジョージ・ライアン前イリノイ州知事による、同州の死刑執行の全面停止(2000年1月30日)、死刑に関する知事委員会発足(同年3月9日)、そして、今年1月に行われた一連の決断(1月10日:4人の死刑囚に対する恩赦、1月11日:同州内のすべての死刑囚167人に対する一括減刑)への大きな影響力を与えた機関である。インタビュー調査においては、主たる誤判原因として挙げられてきた(1)Eyewitness Error and Perjury(目撃証人の誤りと偽証)、(2)Snitches(密告者)、(3)False Confessions(虚偽自白)、(4)Police Torture(警察における拷問)について、その実態と誤判防止・救済のための方策とを聴取した。
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