本年度の研究実績は以下の通りである。 (1)刑法学会第82回大会における研究報告「刑事訴訟における事実観」を刑法雑誌44巻3号において公表した。これは刑事訴訟における事実とは訴訟的事実であることを、証拠の構成プロセスにも触れながら論じたものである。 (2)被告人の公正な裁判を受ける権利の一環としての公正な事実認定を保障するための基礎理論として、刑事訴訟において証明の対象となる訴訟的事実とは犯罪事実、被告人に不利益な間接事実・補助事実であることを論じた「刑事訴訟における絶対的権利としての公正な事実認定-その理論的基礎」を『小田中聰樹先生古希記念論文集民主主義法学・刑事法学の展望上巻』において公表した。 (3)再審事件における確定判決の証拠構造の特徴を研究するため、布川事件再審開始決定の理論的分析を行い、その成果を「布川事件再審開始決定の意義と刑事手続・再審の改革課題」(法律時報77巻13号)において公表した。 (4)実務家の観点から見た証拠の構成プロセスや刑事訴訟における事実の問題を検討するため、上田誠吉氏にインタビュー調査を行い(2004年11月15日並びに2005年4月1日)、その成果を「刑事裁判における事実とは何か-上田誠吉氏に聴く」(龍谷法学38巻3号)において公表した。 (5)刑事訴訟における基礎理論、訴訟構造論、モデル論、事実認定論の議論を踏まえながら、不可知の絶対的真実と相対的・制約的な訴訟的事実とを前提とする二項対立的事実観が被告人の公正な裁判を受ける権利の保障にそぐわないことを明らかにした上で、この事実観に替わる規範的・構成的事実観を打ち出した『刑事訴訟における事実観』(日本評論社)を公刊した。
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