結果的に言うと、平成15年度に予想された日米の消費者倒産手続の法改正は、それぞれ実現されないままであるため、現時点において法改正の評価を織り込んだ研究を進めることは困難な状態にある。日本においては、破産法の全面改正が来年度に持ち越しとなり、個人再生手続の近時の整備を踏まえた破産手続の改善の方向は確定していない。また、米国においては、清算型手続たる7章手続の申立ての濫用を防止するための施策として、一定額以上の資力を有する債務者の申立てを認めないとする資産テストの提案や、7章手続の申立債務者に家計管理講座の受講を義務づける提案が、やはり実現されないままである。いずれとも、債務者更生のための法的手続を複数用意した場合における、手続利用者の適正な振り分けの困難さを示唆している。 他方で、免責に関する理論的研究については、日米ともに近時一定の成果が見出せる。歴史的観点からは、19世紀米国における経済発展に伴って、支払不能状態の債務者が多数生じた結果、債務者に対し厳格な清算手続がそれ自体経済的に見合わないことが明らかとなった点が、免責制度をはじめとする債務者保護に厚い法制の採用の要因であったとの分析が見られるし、理論的正当化の視角として、事業リスクから自然人を遮断するための制度であるとの理解が有力に主張されてきている。 ただし、これらの研究成果によっても、清算型手続と和議型手続の並存の必要や両者の機能分担を十分に説明できるわけではない。むしろ手続の長期化を不可避的に予定する和議型手続の劣位を基礎づける側面すら持つ。このことから日本における個人再生手続の整備は、手続の簡素化の要請を強く受けた。が、これと別に、清算型手続の簡素化傾向に対する一定の歯止めを検討する方向があってしかるべきである。清算型のみ清算手続が不可避なはずだからである。
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