本年度は、アメリカ、フランス、ドイツの民事訴訟において専門家の意見を入手するための制度を調査した結果を公表した。このうち、ドイツやフランスの鑑定制度は、裁判官が鑑定人を選任する点において、日本法の鑑定制度と類似しているため、日本の鑑定のあり方、とくに当事者の手続権の保護のあり方について多くの示唆を得た。加えて、当事者が専門家を選任する専門家証人の制度を採用してアメリカ法からは、日本で最近見直されつつある私鑑定制度のあり方について、参考になる視点を多く得た。 また、特許権を中心とする知的財産権の侵害訴訟を念頭において、権利者による侵害行為の立証を容易化するために、権利者が侵害者や第三者の手元にある証拠へのアクセスを容易にするとともに、これらの手続において相手方当事者の秘密が不当に開示されないようにするための各国の制度について研究を行った。このうち、日本の制度として、民事訴訟法上規定されている、一般的な文書提出命令や、特許法や不正競争防止法などに規定されている文書提出命令の特則について比較検討を行った。まず、民事訴訟法上の文書提出命令は、「技術または職業上の秘密」に関する文書については提出義務を免除しているが、ここで掲げる意味について、最高裁決定を素材に見解を示し、また、特別法上の文書提出命令については、特段の事情がある場合には提出義務が免除されるが、これと営業秘密との関係についても論究した。また、諸外国における、同様の制度である文書提出命令と営業秘密の関係、フランスにおける侵害物の差押えの制度などの特別な制度についても紹介を行った。さらに、この問題と関連して、ドイツやフランス、ベルギーにおいて、営業秘密が関係する場合の裁判の非公開制度について紹介した。
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