平成17年度は、平成15年度から17年度の間に公表した論文に手を加えて、1冊の研究叢書として出版する準備を行つた。とくに、法学協会雑誌に連載した「民事訴訟と専門家」の発表後に、新たに制定された法律や、出版された著書や論文から得た情報を盛り込む形で編集を進めた。例えば、ドイツで、2004年に鑑定人の報酬に関する法律が大幅に改正されたことや、フランスで、同年、鑑定人のリストや研修制度について法律が整備されたことの紹介を行った。また、アメリカで、裁判所が専門家証人を選任しやすくするために、1999年に立ち上げられた5ヵ年プロジェクトの成果についても調査を進めた。その結果、このプロジェクトが裁判官を中心に高く評価され、プロジェクト終了後の今日に至っても、適用範囲を拡大しながら試みが続けられていることが判明した。このように、法律改正や新たな状況を調査するのみならず、歴史的な研究も平行して進めた。特に、16年度末の海外出張によって、イギリスやフランスの民事訴訟制度と専門家の制度について紹介した文献を複数入手することができたことで、各制度の起源に遡る研究が可能になった。この研究成果を取り込んだ研究叢書は平成18年度に出版予定である。 また、裁判外紛争処理制度の推進に資すると考えられている証拠制限契約の意義について、ドイツ法とアメリカ法を対比しながら研究を行った。具体的には、ADRを促進するために、包括的に証拠の提出を制限する契約を締結することがもたらすメリットとデメリットを比較検討し、望ましい解決策を探った。この研究の成果は、「一橋法学」に掲載され、17年度の日本仲裁・ADR法学会でコメンテータによって紹介された。本論文自体は民事紛争一般に関わるものであったが、今後は、知的財産権をめぐる紛争を裁判以外で解決する手段についての研究へと、発展させる予定である。
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