アメリカの各州法では、会社取締役の信認義務の一内容として「株主に対する開示義務」という考え方が問題解決のためのキーワードとしてしばしば用いられてきた。しかし、そこで扱われている問題には多様性があり、今年度の研究はその整理・分析に集中した。その概略は以下の通りである。(1)取締役が自己と会社との間の取引に対する株主の同意を勧誘し、またその取引の有効性や公正さ(の外観)を確保するためにそのような同意に依拠する場合における開示義務。(2)インサイダー取引の文脈における開示義務。(3)利害関係のない取締役が株主に対して、取締役が推奨を行った事柄について議決権を行使したり、あるいはその他の行為を行うように求める場合の開示義務。(4)継続開示やプレス・リリースにおける開示義務。これらの各類型は、利益相反関係の有無、対象となる株主の範囲等の点で異なり、同じ理屈の下で処理する必然性に乏しいようにも思われる。ただ、これらの類型の史的な展開を追うと、アメリカ法内在的にはそれなりの理由があったことも窺える。例えば、(3)から(4)への展開には、1995年の私的証券訴訟改革法による証券訴訟の州裁判所へのシフトという背景がある。そこで、次の作業としては、各類型に対応する問題の処理の在り方を比較法的に考察し、特殊アメリカ的な事情による部分と我々にとっても示唆となる部分とをきちんと区別していくことが必要である。これが当座の課題であり、そのような考察の結果として日本法に対する示唆が得られるか否かは未だ確信はないが、少なくとも彼我の考え方を相対化することはできると考える。
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