本年度は、金融取引における約款の相殺条項に関する研究を行うため、金融取引関係に関する外国文献および国内文献および資料の収集を行った。国内の文献および資料の収集に関しては、研究会を通じて主として関西の金融取引法を専門とする研究者と交流を図り、収集が困難とされている各種金融取引に関する約款の収集を実現することができた。また、10月に渡韓し、韓国における相殺を含めた非典型担保に関する状況を国民銀行において聴取し、併せて韓国銀行取引に関する資料の収集を行った。 本年度の具体的な成果としては、賃貸借契約に付随して交付される敷金と未払い賃料の相殺と抵当権による物上代位の優劣が議論されており、敷金契約に含まれる相殺の担保的効力という観点から、敷金による未払い賃料への充当とその第三者効について検討を加えた。 さちに、昨年破産法の見直しに関する中間試案が公表され、今回の破産法改正においては、金融実務における各種ネッティング相殺による集中決済の実施等近時の資金決済システムの多様化を背景に、右資金決済システムに対応すべく改正案が盛り込まれている。そこで、相殺法理の実体法上の効力を踏まえたうえで、その効力を破産法上修正する必要があるか、修正あるいは特別の効力を付与するのであれば、その取り扱いは妥当なものかという観点から、倒産実体法に関する部分について若干の検討を加えた。 また、私法学会において「合意相殺の第三者対抗力」としてドイツ合意相殺論と日本法への適用可能性に言及した個別報告の要旨が、本年度公表された。
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