本年度は、金融取引における約款の相殺条項に関する研究を行うため、前年度に収集した金融取引関係に関する外国文献および国内文献資料を中心に研究を実施し、その成果の一部を研究会並びに雑誌論文において公表した。 また、昨年9月に渡独し、非典型担保を含むドイツの担保法制に関する調査研究を行い、ハイデルベルク不動産登記所、ハイデルベルク大学法学部において資料集及び相殺を中心とした非典型担保の現状に関する情報提供を受けた。また、併せて金融取引に関するドイツ文献の収集を試みた。 今年度の具体的な研究実績としては、第一に、ドイツにおける相殺契約の類型と第三者に対する効力を中心に分析し、ドイツ法における相殺を用いた債権担保に関する判例および学説の現状を明らかにし、併せて日本法へのドイツ法理解の適用可能性について検討を加えた〔雑誌論文1〕。第二に、昨年3月に動産譲渡担保・債権譲渡担保の公示制度を見直し、第三者対抗力を確保することを目的とした「動産・債権譲渡に係る公示制度の整備に関する要綱中間試案」が公表され、当該試案に対して、非典型担保契約により帰属する当事者の実体的権利という観点から検討を試みた〔雑誌論文2〕。特に、債権譲渡担保の対抗要件に関しては、債権処分型の債権担保手段の対抗要件という点で相殺と同質性を有しているとの観点から、詳しく検討を試みた。第三に、近時の担保法改正の動向として、平成15年の担保法制の改正を中心にその概要と問題点の整理を試みた〔雑誌論文3〕。 以上の今年度の基礎的研究と平行して、引き続き資料収集および論文執筆に取り組むとともに、来年度は、今年度までに収集した資料および情報をもとに、資金決済システムとして活用されているネッティングに関して、その対内的効力、対外的効力の分析を試みる予定である。
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