デリバティブ取引における業者の情報提供義務と損害賠償責任についてドイツ法の分析を行った。1989年に新設されたドイツ取引所法53条2項の「情報提供による取引所先物取引能力」制度は、デリバティブ取引について、一般投資家に情報を提供する義務を業者に課し、これを契約の有効要件とした。しかし、1990年代の裁判実務は、契約を無効とするかたちでの投資家保護に躊躇し、定型化された書面を業者が顧客に交付すれば、顧客が実際に理解したか否かを問わず契約を有効とする旨の判例法理を形成した。その一方で、判例は、契約交渉過程の信義則、黙示の助言契約、あるいは、1994年に制定された証券取引法31条2項を根拠に、業者に厳格な情報提供義務を課し、義務に違反した業者に損害賠償責任を負わせた。つまり、契約を有効としながら損害賠償によって一般投資家を保護するというのが1990年代の判例の傾向といえる。その結果、取引所法53条2項は存在意義を失い、2002年に同規定は廃止され、新たに証券取引法37d条において、金融先物取引について業者に情報提供義務が課されるとともに、義務に違反した業者は損害賠償責任を負う旨の明文規定が置かれた。「契約無効型救済」が放棄され、判例と同様、制定法においても一般投資家の保護が「損害賠償型救済」に統一されたことになる。しかしながら、新設された証券取引法37d条が一般的な情報提供義務を定めた同法31条2項とどのような関係に立つのかをめぐって見解の対立が見られる。今回の研究において、ドイツ取引所法旧53条2項をめぐる判例、ならびに、2002年のドイツ証券取引法改正の趣旨を解明し、わが国の金融商品販売法との比較を試みた。研究成果は来年度の専修大学法学論集に掲載する予定である。
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