デリバティブ取引における業者の情報提供義務(説明義務)に関するドイツの法状況を研究対象とし、以下の成果を得た。(1)1989年に導入されたドイツ取引所法旧53条2項の「情報提供による先物取引能力」制度は、一般投資家による先物取引締結の有効要件として業者に情報書面の交付を義務づけたが、有効要件としての性格上、法的安定性が求められたことから、判例によって情報書面の内容は定型化されたもので足りるとされ、個々の投資家の知識や経験に合わせた情報提供が不要とされた結果、投資家保護の制度として機能不全に陥った。(2)その一方で、裁判実務では、取引所法旧53条2項とは別個の厳格な説明義務や助言義務(適合性原則を行為義務化したもの)を業者に負わせ、義務に違反した業者に損害賠償責任を課す判例法理が形成され、個々の投資家の知識や経験に適した情報提供の実現が図られてきた。(3)ドイツ取引所法は「取引所先物取引」概念について定義付けを放棄し、新型のデリバティブ取引を取引所法の適用対象に含めるか否かの判断を裁判所に委ねることによって、新型の金融商品が取引所法の規制対象外となる事態を回避した。同様の手法は2002年以降のドイツ証券取引法にも継承されている。この点で制限列挙主義をとるわが国の金融商品販売法とは異なる。(4)2002年に先物取引能力制度が廃止され、その代わりにドイツ証券取引法37d条以下において「金融先物取引における情報提供義務」ならびに義務に違反した業者の損害賠償責任が明文化されたが、業者に厳格な説明義務や助言義務を課してきた従来の判例法理との関係が明確ではなく、わが国の金融商品販売法と類似の問題が発生している。以上の研究成果をまとめ、論文「デリバティブ取引における説明義務と損害賠償責任(1)」を公表した。
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