本研究課題に関する平成17年度の研究実績は以下のとおりである。 第一に、労働・社会保障分野において国家と社会をつなぐ橋梁となるべき中国の労働組合(工会)、に関し、市場経済化以降の実際の活動と工会改革をめぐる議論について文献調査、聞き取り調査を行い、人事・財務の両面で党・政府の一組織・一幹部としての地位に固執する消極的改革論と、党・政府から切り離された利益集団としての再生にのみ組織存続の可能性を見出す抜本的改革論の狭間で揺れ動く工会の現状を明らかにした。一連の研究成果は、「中国の市場経済化と『工会』改革をめぐる議論」(『アジア研究』第52巻第1号、2006年1月)に公表した。なお、工会に関しては、これまでの歴史研究と現状分析を博士学位請求論文として完成させ、提出した。 第二に、工会を中心とする労働者の利益表出ルートが機能不全に陥っているという前提に立ち、実際の労働争議の発生、処理プロセスに関するケース・スタディを行った。具体的には、2002年3月に遼陽鉄合金工場(遼寧省)、大慶油田(黒龍江省)で発生したデモ、2004年12月にユニデン(深〓市)で発生したストライキ、2005年9月にキャノン(大連市)で発生したストライキ等を対象に、労働者(当事者)と現地政府、現地工会、メディア、知識人、NGO、外国政府の間に如何なる関係が築かれつつあるのかを分析した。成果の一部は、「労働組合・労働運動」(『アジア遊学』83号)に公表した。
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