本年度は、中国(上海市)と台湾(高雄市)の調査を実施した。なお中国の地方都市については、当初大連市を対象に予定していたが、研究実施過程で上海市がより適当と考えこれに変更した。 上海市と高雄市は中央政府の直轄下にある地方都市(直轄市)であり、双方ともに中央政府の影響下にある石油化学工場(前者では国有企業・上海石化、後者では国営事業・中国石油)が存在している。両市はそれを固定汚染源とする大気汚染問題を抱えているが、近年その改善が見られる。その背景として、両市において環境行政がより効果的に実施されたことがあげられるが、本年度の研究ではそれを促した要因が明らかにされた。高雄市の場合、それは政治の民主化であった。台湾では、民主化の過程で頻発した「自立救済」と呼ばれる社会運動が、中央政府による環境問題を含む社会問題への取り組みに大きな影響を及ぼした。地域住民による強烈かつ直接的な抗議行動は、さらに地方政府と国営事業の双方にも意識変革をもたらし、それがより有効な環境ガバナンスの構築につながったと考えられる。一方、中国の現状を考えれば、上海市の場合には政治の民主化という要因は存在しない。しかし、その代替的要因として改革開放政策の進展に伴うグローバリゼーションを指摘できる。改革開放以降の中国では、中央政府が環境保護を重視する姿勢を示しているが、地方政府でも経済発展と環境保護を同時に考慮する必要性がすでに認職されている。また上海市のような経済発展レベルの高い地域では、住民の環境保護意識の高まりが地方政府に環境行政の改善を求める圧力となっている。さらに、国際市場における競争圧力が国有企業の意識変革を促したことから、地方政府は国有企業との環境保護に向けた協議が可能となった。このことは地方政府による環境行政の有効性につながっていると考えられる。
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