本年度は、第1に、政権政党の党派性によって、実施される経済政策の内容が規定されるという研究を適用して、日本の経済パフォーマンスの変動を、金融政策、労働政治、および自民党の党派性から説明しようとする研究を行った。ここでは、自由主義と社会民主主義とを混在させた自民党の特異な党派性と、1970年代後半以降の日本銀行のインフレ抑制的な金融政策、そして輸出セクター主導の賃金抑制との組み合わせによって、良好な経済パフォーマンスが実現されたこと、しかし、1990年代においては、その中途半端な党派性を原因として、経済問題の解決が先送りされ、その結果、経済パフォーマンスが悪化していることを論証した。第2に、経済産業研究所が主催している「危機の政治学研究会」(代表:久米郁男神戸大学教授)で、Torsten Svensson (Ass.Prof.Uppsala University)、真渕勝(京都大学教授)とともに、日本とスウェーデンの金融危機の比較研究を行った。ここでは、金融当局と金融機関との関係の差異が両国の政策対応の違いをもたらしたことを明らかにした。第3に、経済産業研究所が主催する「バブル問題研究会」(代表:村松岐夫学習院大学教授)で、1990年代前半において、金融当局が金融問題への抜本的な対応策を実施せずに「先送り」した原因を研究した。ここでは、金融危機管理を本務とし、長期的観点からそれに取り組む組織が日本にはなかったことがその原因であることを示した。第4に、1980年代の日本と1990年代のアメリカにおける株価バブルの政治的要因を比較研究した。その結果、両国ともに、株価の高騰にもかかわらず、一般財の物価が安定していたために金融緩和が継続され、株価バブルが発生したこと、そして物価の安定は、労働賃金の抑制と、中央銀行に対する信認の高さが原因だという知見が得られた。
|