本研究は、国際連合開発計画(以下、UNDP)が南東欧において推進している早期警報システムの課題と展望を考察することを目的としているが、これは開発援助機関としてのUNDPが、昨今の援助潮流である紛争問題に取り組むにあたっての問題を探ることを意味している。 交付初年度は、南東欧のなかでも早期警報システムに関する報告書を定期的に発行しているブルガリアとボスニア・ヘルツェゴビナの報告書を収集し、その分析に努めた。また、9月にはスロバキアのブラチスラバにある同地域のサポートセンターを訪れるとともに、サラエヴォとソフィアの各UNDP現地事務所にて、担当官にインタビューを実施した。そのような調査の結果、同地域においては、各国ごとに早期警報に関する取り組みの温度差が確認され、地域として一貫性のある活動が行われていないことが判明した。このことは、UNDPが長年進めてきた活動の現地化の影響によるところが大きく、セルビア・モンテネグロでは、すでに早期警報報告書の発行をとりやめてしまっている。そのため、サポートセンターが意図していた地域レベルでの早期警報報告書作成の計画は頓挫するに至った。つまり、麻薬や人身売買などの地域的な広がりをみせる問題を抱える同地域において、そのような問題を解決するための一つの手段が失われたことを意味していると言える。 以上のように、現地事務所への権限委譲と地域レベルでの紛争間題の解決との間に、UNDPはジレンマを抱えていると考えられる。また、現地政府との関係においても、早期警報を発する事への懸念があると言われており、今後、早期警報を発するという紛争予防の観点から、内政不干渉原則との関係でどのような政策方針を打ち出すべきかが注目される。さらに、サポートセンターの意向が通らない現状から、UNDPという組織の縦の関係を見直す必要性もあるのではないかとの結論が導かれた。
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