本研究は1956年から57年にかけてのイギリス政府による対欧州自由貿易地帯構想の提案と、50年代末に至ってのその挫折、欧州経済共同体への加盟申請という経済外交戦略の変遷過程を、政治家と官僚という主要アクターたちが政策決定に及ぼした要因を分析しながら再現するために、第一に、政権交代の影響を受けずに一貫して政策決定に従事しづづけた官僚レベルでの対欧州経済外交戦略の変化の有無・程度を英国立公文書館所蔵の公文書史料により裏付けると共に、政権にあった保守党政府主要閣僚の私的文書類も併用し、双方の間の相互作用の過程を分析することにより、政治的リーダ達がこれらの官僚達の認識に、どのような関心を持ったか、そしてどのような影響を受けたか、また政治的リーダーシップは官僚達の問題認識にいかなる影響を与えたかも分析し、両者の間の問題認識の違いの有無・程度を明確にし、政策決定、政策変更の主要な要因はいかなるアクターによってどのような考慮から提示され採用されていったのかを当該事例について明確にすることを目的とするものである。 本年度はまず、研究対象時期のイギリス政府の対ヨーロッパ経済外交政第決定過程に関わる、不可欠の一次史料としてイギリス国立公文書館(ロンドン)所蔵の各種政府機関(主として大蔵省、外務省、商務省および首相府)の公文書類を現地に出張して収集整理・分析をおこなった。帰国後はこれらの史料類を整理し、政策決定過程の再構築およびその中での官僚と政治的リーダーシップの果たした役割の相違を示すに必要である文書類の精選とデータ入力を行い、二次文献の形で入手可能な当時の関係者の発言・行動を記録した公刊史料集・論文集などの収集と精読も行った。これらの作業を経て、本年度中の実績としてはクロノロジカルな形で、重要な政策決定過程を再構成した筆者独自の二次的な歴史的記述をおこなう作業を開始し、年度末までには第一段階としての自由貿易構想提案に至る政策決定過程(1956年半ばまで)の再構築作業を完了し、論文として完成発表した。
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