研究概要 |
本年度は,セーとシスモンディにおける「エコノミー・ポリチィーク」と「エコノミー・ソシアール」という概念の重層的把握を分節化するため,両者が取り組んだ「絶対主義アプローチ」にもとづく経済学の通史研究を集中的に検討した.その結果得られた知見は,両者ともに,スミスと彼以前の経済学的思考とのあいだに明確な断絶を認め,なおかつ,スミスの経済学を自己の問題関心に引きつけて解釈し,スミスとの連続性(とくに方法論の領域)を主張することで,自己の経済学の正統性と独自性を強調したことである.セーはスミスを,政府と人民との関係を扱う「政治学」と,富を対象とする「経済学」とを分離した点で評価するが,シスモンディは,国民すべての「一般的至福」を対象とする政府の学問=「統治学」の成立をスミスのなかに見出し,「経済学」は「政治学」とともに「統治学」へと再統合されることで本来の役割を果たすものとされた.さらに,セーにおいては,富を専一的に対象化する「エコノミー・ポリチィーク」は,短期的な政策運営にかんする政策論とは区別される一方,有機体のアナロジーをもちいて,「社会体」を構成する法則・制度・経済主体の功利規範という三つの射程から富を照射する「エコノミー・ソシアール」として論じられていた.次年度は,本年度の研究をふまえて,シスモンディにおける「エコノミー・ソシアール」概念の実相を,彼における「一般的至福」の認識にもとづく労働問題へのアプローチを検討するなかで,明らかにする予定である.なお,そのさい,シスモンディを「エコノミー・ソシアール」論の先駆者とみなした,第三共和政期に高まりをみせる「連帯論者」の諸説をも視野に入れて検討する.
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