研究概要 |
本年度は,前年度に引き続き,十月革命の勃発からネップ期にかけてのブルツクスの活動を中心に研究し,その成果を論文「初期ネップ下の提言にみるブルツクスの経済発展観」として査読を経て学会誌に公表した.この論文では,内外のブルツクス研究の動向をふまえつつ,ブルツクスがネップ初期にソヴェト政府機関の機関誌を含むいくつかの公的な場での発言においての革命後の農業の崩壊の原因を土地共同体とそれによる総割替の復活および割当徴発制度に求め,農業の復興のためには農民に抵当権を含む自由な土地処分権を与え,農村から都市への労働力の移動を円滑化すべきであるという提言を公然と行ったことを当時の文献資料に即して紹介し,国民経済の工業化の過程を資本主義の優位と経済全体の複合性という視点から把握する彼の独自の経済発展観の理論的意義の再評価を試みた.また,1922年の彼の国外追放の背景と経緯も示した. これらと並行して,二月革命期および国外追放後の活動についても研究を進めた.8月には約2週間にわたり,モスクワの国立図書館および歴史図書館でブルツクス関連の資料を収集した.十月のロシア東欧学会大会(北海道大学)では,中間的なまとめと今後の論文執筆の準備を兼ねて,「ブルツクスの生涯と学説」と題する学会報告を行った.この報告では,ブルツクスの生涯の各時期の活動を要約し,亡命ロシア人の新聞・雑誌や亡命地のドイツの経済誌への寄稿等をも含む250点からなるブルツクスの著作のリストを示した.このリストは,現時点では最も詳細なものである.
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