この研究では経営者に対する「報酬の支払い方」が重要かどうかを分析した。経営者の報酬と企業の業績の関係を計測した。この関係の高い企業と低い企業の業績を比較した。エージェンシー理論によると、報酬-業績関係の高い企業では経営者の努力インセンティブが高いため、企業の業績も向上する。日経225インデックスに含まれる非金融企業210社の1993年から1995年までのデータをサンプルとして実証分析を行った。ランダム効果プロビットモデルを用いて、報酬-業績関係を強化した企業の業績が向上したかどうかという分析をした。この実証分析ではこのような関係を確認することはできなかった。すなわち経営者への報酬の支払い方と業績の間には有意な関係はなかった。経営者の労働市場が、外部労働市場ではなく企業内労働市場と密接な関係があるという考え方と、この結果は整合的である。 さらに1部上場企業を対象に、役員報酬と従業員賃金の関係を分析した。日本企業の役員報酬にはいくつかの特徴がある。第一に、多くの役員は、従業員から選別され、昇進して役員になっている。多くの従業員にとって役員に昇進することが目標となっている。役員報酬は、昇進した従業員に対する賞与という側面をもっている。昇進することで高い役員報酬を得られると考える従業員は、昇進するために努力するであろう。もう一つは、役員報酬と従業員賃金には多くの類似点があるという点である。従業員の賞与も役員賞与も企業利益と強い相関がある。これらの点から、役員報酬と従業員賃金の間に強い関係があると思われる。東京証券取引所1部上場企業を対象に、操作変数法を用いた分析によると、経営者の報酬と従業員賃金の間に有意で正な関係が観察された。これらの結果から、目本の経営者のインセンティブは内部労働市場と密接な関係を持っていることが明らかにされた。
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