本年度は、景気循環研究におけるミクロレベルでの構成要素としての企業活動、特に企業の雇用調整行動の分析、および貯蓄・消費主体である家計の、所得変動リスクに対峙するための予備的貯蓄決定の分析を行った。具体的には、(1)内閣府による2001年企業活動アンケート調査に基づいた、上場企業の将来業績予想や過剰労働力是正の分析、及び(2)総務庁家計調査個票データに基づく家計の消費・貯蓄決定の実証分析である。(1)は、企業のミクロレベルでの分析であるが、業種別属性を用いた分析として、多部門景気循環分析の基礎となるものである。(2)は、景気循環モデルで標準的に採用されている動学モデル、とくに異質な個人を含む動学モデルを用い、消費と貯蓄の家計レベルでの決定を、各家計の将来所得変動リスクや資産蓄積等を組み込み、カリブレーションと統計分析の手法を組み合わせる構造推定アプローチを採用した。この結果、2001年前後の家計貯蓄において、40歳前後では40%程度が将来所得の変動に対処するための予備的動機であり、通常のマクロ動学モデルで想定されているライラサイクル要因による貯蓄は通常想定されているよりも小さいと言う結論を得た。この成果は、2005年『経済研究』56巻3号掲載予定の「消費関数の構造推計:家計調査に基づく緩衝在庫モデルと予備的貯蓄に関する実証分析」にまとめられている。(1)は、まだ進行中であるが、暫定的な結果として、日本の上場企業で将来のマクロ予想が他の企業よりも相対的に悲観的な企業は雇用を減少させようとする傾向にあり、かつ取締役会が従業員出身者で占められている企業は雇用を減少させるときには、新規採用を抑制し、早期退職等の現行人員の削除は行わない傾向にあることが明らかになっている。現在は、企業の資本関係や取引先との企業関係をデータベース化し、企業のミクロレベルでの雇用政策決定要因の分析を行っている。
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