研究概要 |
企業組織内における財務・投資・販売などの様々な意思決定と,我が国で発行額が急激に増大している社債市場との連関を明らかにすることが本研究の一貫した目的である.今年度は特にこれまでの社債市場における制度的な要因が,どの様に市場に影響を及ぼしてきたかを見ることを主眼としたため,我が国における普通社債の価格ないし利回りが形成されるメカニズムを中心に分析した. 研究における重要な結論としては,まず1点目として,社債管理会社不設置債,いわゆるFA債はLIBORを基準とした利回りスプレッドが厚くなっており,応募者利回りは相対的に高く設定される傾向が存在することである.次に2点目として,社債の引受幹事社数が多くなれば,利回りのスプレッドは薄くなり,3点目として社債額が大きいほどスプレッドは厚くなることが示された.特に後者2つの事実は社債発行市場における利回り形成が完全に市場原理に即するものではなく,依然として現在の制度による影響を強く受けてることを示すものである. 以上の結果は経済理論を用いて個別に解釈がなされたが,同時にまた実務的な含意を提供するものでもある.例えば第1の結論より,FA債には一定程度のリスクが付随するために他の債券よりも価格は低くなることは,実際に投資や資金調達を行うに際して重要な結論であり,企業での意思決定に有効な示唆を与えるものである.生命保険協会の一連のレポートではFA債は価格により調整はされないと示されているが,それとは幾分異なる結果を提示することができた. なお以上の研究成果は平成15年9月に発行された岡東務・松尾順介編『現代社債市場分析〜新たなるアプローチ』(シグマベイスキャピタル)の1章分として収められた.また今年度は京都大学大学院経済学研究科に課程博士学位請求論文を提出し,博士学位を取得した.これは以上の社債市場分析に関する内容を中心とするものであったため,これも本研究の成果の一部となる.
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