企業の環境の変化に対する適応力や将来予測能力が、企業利益にどのように影響を与えるのか、また、社会全体にはどのように影響を与えるのかを分析した。 企業の能力が企業収益率に与える効果の分析は今回のプロジェクト以前からやられている研究を引き継ぐ形で行われた。具体的には「Prediction Ability and Investment under Uncertainty」と「The Value of Adaptability」という2つのDiscussion Paperが今回のプロジェクトがスタートする以前に書かれていたが、査定付き雑誌への投稿のためより分析がより精緻化された。結果として、各企業の適応力の増大や将来予測能力の増大が企業の市場価値や利潤率を上昇させることはかなり一般的にいえることがわかった。また、環境に対する適応力は企業の直面するリスクが高いほど大きいことが確認された。 「Entrepreneurial Efficiency」というDiscussion Paperを10月に書き上げたが、そこにおいては、企業の適応力が社会に与える効果を理論的・実証的に分析した。完全競争市場においては、企業の適応力の上昇は資源配分を効率化し総要素生産性を上昇させるが、経済構造にゆがみが存在するときには、かえって資源配分のゆがみを増幅させる可能性があることが確認された。より具体的には、企業が政府から補助金を受けており、補助金額が政治的変動に影響を受ける際に、そういった政治的変動に適応することは、他の企業が補助金を受け取る機会を奪うことにつながる。そのため、負の外部性が生じ、生産性が低下しうるのである。こういった企業の適応力のマクロ全体への効果は日本の工業統計表のデーターを集計化することで実証的に確認された。 現在、次のプロジェクトとして「Fiscal Policy and Entrepreneurship」という論文を執筆中である。そこにおいては企業家行動と財政政策の関係が理論的に分析されている。
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