研究概要 |
本年度は次の2点について研究の進展があった。第1に、企業投資の調整費用の源泉を分析することを通じて、新しい企業成長理論を構築した。第2に、企業のリーダー育成を重視した教育政策のマクロ経済への影響を理論的に考察した。 従来の企業投資の理論は主に二つタイプの投資への制約を基礎に分析がなされてきた。一つは、凸型の調整費用であり、もう一つは投資の付加逆性である。私の今回の研究は、まったく異なるタイプの投資への制約を下に企業投資の分析を行った。その制約とは、人間は多くの決定を一度に行うことはできないという制約である。論文では、この制約を前提とした場合に考えられる投資行動は、多くの観察されるデーターと一致することを理論的に示した。例えば、事業所レベルでは個々の投資は一時期に集中して行われる一方、企業レベルでは毎年コンスタントに投資が行われているといった現象を今回のモデルは説明できる。また、投資機会の代理変数であるはずのトービンのQよりも、手持ち資金が投資に大きく影響を与えるという現象も今回のモデルは説明できるのである。この論文は"Limited Attention, Interaction and the Growth of a Firm"としてディスカッションペーパーにまとめられ、現在、雑誌に投稿中である。 二つ目の教育政策の論文においては、リーダー育成に重点をおいた教育政策への移行の是非は、その国の産業や企業の構造の分析抜きには語れないことを示した。具体的には、産業間の財の補完性が高い場合や、企業内でリーダーにあまり権限が与えられていない場合は、リーダー育成政策よりも、質の高い労働者を多く育てることが、一国のGDPを高める意味においては望ましいことを示した。この論文は、近々、ディスカッションペーパーとしてまとめ、雑誌への投稿を図る予定である。
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