本研究は世界で第2の労働輸出国フィリピンにおける国際労働移動の経済分析である。まず、フィリピン人出稼ぎ労働者の現状を見て、母国への経済効果を調べた。そこで、積極的な労働輸出政策は有効な雇用・外貨取得対策となっていると同時に、彼らの仕送りを通じて国内の消費行動に大きく影響を与えることが分かった。また、実証分析によって、年齢や家庭内の役割分担、海外での職業、受入れ国などは出稼ぎ労働者数や仕送り額の決定要因であることも分かった。次に、1997年〜2002年のミクロサンプルデータ(Survey of Overseas Filipinos)を用いて、彼らの母国での職業と受入れ国での職業を大きく9つに分類し比較した。その結果、サンプル数の29.7%のみの場合、母国の職業と海外の職業が一致しており、約7割の場合、mismatchが発生していることも明らかになった。 つぎに、三つの受け入れ国(アメリカ、イタリアおよび日本)のケースを取り上げ、それぞれにおけるフィリピン人出稼ぎ労働者の特徴や国際労働移動政策を比較した。アメリカのフィリピン人出稼ぎ労働者の多くは介護産業・IT産業のような熟練労働に従事しているのに対して、イタリアの場合は家事従事者が一般的で、また、在日フィリピン人出稼ぎ労働者の大半はエンターテイナーである。このような職業の「典型化」はそれぞれの国におけるフィリピン人労働者の性質(年齢、性別、教育)を大きく左右している。また、アメリカ・イタリアは日本に比べて、「家族の再統合family reintegration」や労働者の定住化・帰化を積極的に導入していたが、それは国内で厳しく批判されているので最近見直されている傾向がある。 最後に、介護産業に焦点を当て日本の介護労働市場におけるフィリピン人受け入れの可能性を分析した。日本の高齢化につれて、特に介護産業従事者の需要が強くなると予測され、日本とフィリピン両政府は2004年末に自由貿易協定の一環としてフィリピン人介護労働者の受け入れについて基本的に合意した。そこで、本研究では、具体的にどのような介護労働者が必要なのかを、一般市民を対象にアンケート調査を行なった。その結果、日本国内の介護資格、日本語能力、日本文化の知識が外国人介護労働者の受け入れの必要条件であることが分かった。
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