研究概要 |
消費者選好の異質性と生産技術の異質性が相互に依存し合う理論モデルを構築した.選好の異質性は,離散選択理論に基づく製品差別化の理論と同様に,確率変数の分散に関連したパラメータとして表現し,技術の異質性は,産業化の理論と同様に,小規模生産技術(固定費用は小さいが限界費用は大きい)と大量生産技術(固定費用は大きいが限界費用は小さい)という2つの技術を想定した.こうした離散選択理論に基づく製品差別化の理論と産業化の理論の融合から,次の3点を明らかにした:(1)選好の異質性が小さいときは,大量生産技術が採用される.(2)選好の異質性が大きいときは,小規模生産技術が採用される.(3)選好の異質性が中程度のときは,小規模生産技術を採用する企業と大量生産技術を採用する企業が共存する.さらに,(3)の両技術が共存する場合,以下の3点が明らかになった:(a)小規模生産された財の選択確率(市場占有率)は大量生産された財の選択確率より小さい.(b)小規模生産された財の価格は大量生産された財の価格より高い.(c)小規模生産技術を採用した企業の生産量は大規模生産技術を採用した企業の生産量より小さい.また,上記の基本モデルに地域(国家)間の輸送費用を導入し,輸送費用のパラメータと選好の異質性のパラメータを中心にシミュレーションを行った.数値実験から明らかになったことは,(i)輸送費用が高いとき,かつ,選好の異質性が小さいときは,小規模生産技術が採用される.(ii)輸送費用が低いとき,かつ,選好の異質性が小さいときは,大量生産技術が採用される.(iii)輸送費用が低いとき,かつ,選好の異質性が大きいときは,小規模生産技術が採用される.これらの3点から,(I)輸送費用の低下が大量生産・大量消費社会を形成するのに対し,(II)選好の異質化が大量生産・大量消費社会の限界につながると結論づけることができるだろう.
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