1.アジアにおける為替政策協調をめぐる議論を評価するための基礎として、通貨危機前後の東・東南アジア諸国の為替レート政策とその実体経済への影響を再検討した。その結果、多くの既存文献の主張とは異なり、かなりの国の通貨はドルに対して恒常的にペッグされていたとはいえず、特に通貨危機後は政策の柔軟性が高まっていることが確認された。また、通貨危機直前の円高がアジア緒国の輸出実績に与えた影響も一般に考えられているより限定的であり、円ドルレートがアジア諸国のマクロ経済に与える影響を根拠にアジアにおいて共通の為替政策を求めることが困難であることが示された。これらの結果は、11.に記載の論文としてまとめ、公刊済みである。さらに、円ドルレートの変動と電子・情報通信関連製品の外需ショックがアジア緒国の生産や輸出に与える影響を分析し、先の結果と併せて新たな論文にまとめ、所属機関のディスカッション・ペーパーとして発表した。 2.最適通貨制度と国内経済の海外部門への統合度との関係を再検討することを目的として、統計採取が可能な44カ国について、見かけ上の輸出入総額とそれに体化された国内所得・雇用の関係を計測した。その結果、通常の定義による対外依存度(貿易総額の対GDP比率)の高い国において国内所得や雇用の対外依存度が高いとはいえないこと、また、対GDP比率での貿易総額が顕著に上昇している国において所得や雇用の対外依存度が上昇していないケースが少なくないことが見出された。さらに、これらの結果をもとに代替的な対外開放度指標を作成し、その統計的性質を検討した。これらの成果はすでに所属機関のディスカッション・ペーパーとして発表し、学内外の研究会においても報告した。
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