本年度は、初めに、二酸化硫黄排出量取引に関する先行研究のレビューを行った。その結果、市場の事後的な評価は少ないことが分かった。先行研究では、市場が、本来の排出量取引の効率性が発揮されていないことを示しながら、その理由については、明らかにしてないことも分かった。 そこで、発電所における排出量取引への対応を分析する多項選択モデルを構築し、収集したデータを利用して、多項ロジットモデルを推定した。従来の研究では、発電所における対応の選択を、(1)燃料転換、(2)排出量の購入、の二項選択、あるいは、(2)燃料転換、(3)脱硫装置の設置、という二項選択モデルが分析されてきたが、本研究では、(1)燃料転換、(2)排出量の購入、(3)脱硫装置の設置、という三項の選択を同時に分析対象とした。 その結果、発電所における対応は、石炭価格と排出権価格に合理的に対応している側面がある一方で、各州の公営企業委員会が、発電所の対応へ影響を及ぼし、排出権市場の効率性を損ねている可能性のあることが示唆された。特に、公営企業委員会が排出権売買からの利益や費用を、どのように電力会社、消費者、投資家の間で配分・分担するかという規則の不確実性が、排出権の購入を抑制し、結果として、燃料転換を促進したことが明らかになった。一方で、高硫黄石炭に関する契約が、発電所の燃料転換の制約となっていることも明らかになった。 次に、市場の効率性を石炭価格と排出権価格の関係についての理論的検討を行い、推定すべきモデルを特定した。さらに、発電所、石炭の取引データを入手し、データを整理した。来年度は、このデータを利用し、ヘドニックモデルを推定する計画である。
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