本年度は、昨年収集したデータを用いて(1)公営企業委員会の影響分析、(2)ヘドニック分析、および、(3)動学モデル構築を行うための準備を行った。 初めに、昨年に引き続き、公営企業委員会の承認証市場への影響分析を行った。特に、今年度は報酬率規制が、承認証市場における電力会社の行動に影響を及ぼしたかどうかを分析した。その結果、報酬率規制の影響は確認できなかった。 次に、ヘドニック分析の準備として、関連する文献のレビューを行った。次に、ヘドニック分析を行うための理論モデルを構築した。その結果、石炭価格と二酸化硫黄承認証市場の価格との関係式を導出した。さらに、その理論モデルをもとに、米国承認証市場が開始された1995年から1997年のデータを用いて、ヘドニック分析を行った。その結果、承認証価格は、承認証市場開始の当初は要素市場での石炭価格を必ずしも反映していないが、時間の経過とともに、1996年、1997年と承認証価格が石炭価格を反映してきていることが示された。つまり、排出量取引が効率性を発揮するためには、学習効果が必要であることが示唆された。 最後に、発電所における脱硫装置の意思決定およびバンキングを取り入れた離散動学モデルの構築を開始した。そのため、バンキングに関する文献のレビューを行った。次に、従来の排出量取引のモデルと異なり、離散的な投資をモデル化するため、離散動学モデルの文献のレビューを行った。本年度は、これら過去の研究を踏まえ、燃料転換、脱硫装置の設置、バンキングを行う動学モデルの構築を開始した。また、脱硫装置の技術・費用に関する情報収集および、パラメータ推計に関する情報収集も行った。 来年度は、この動学モデルの排出量取引市場の動学的均衡の解の特徴を明らかにするととともに、この動学モデルの均衡を求めることを行う予定である。
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