(i)ソフトウエア生産者のコピー防止措置に関する研究 レコード産業やコンピュータ・ソフトウエア産業においては、コピー防止技術によりデジタル著作物の流通を抑制する措置を導入する動きが広がっている。本研究において、ソフトウエア生産者のコピー防止措置が、その利潤と経済厚生にいかなる影響を与えるかを分析した。既存研究は、オリジナルの需要にそのコピーの需要が反映されるか否かについて、全く反映されないケースと完全に反映されるケースの2つの極端なケースを想定しているが、本研究は、その中間的なケース(semi-indirect appropriability case)を分析の対象として組み入れた。さらに、本研究のモデルは、コピーの入手にはタイムラグがあり、オリジナルとは差別化されることを考慮に入れている。これにより、(1)オリジナルの生産費用よりもコピーの生産費用の方が低いとしても、コピー流通に備わる制度的な非効率性により、コピーの存在はソフトウエア生産者の利潤を減ずる場合があること、(2)ソフトウエア生産者にとって最適なコピー数が存在し、その数までコピーを許容することは完全なコピー防止を行うよりも高い利潤が得られること、(3)ソフトウエア生産者にとっての最適なコピー数は、オリジナルとコピーの間の代替性、収益帰属可能性、およびコピーの流通速度に依存すること、(4)ソフトウエア生産者にとっての最適なコピー数は社会的に望ましい数よりも常に少ないこと、を明らかにした。 (ii)私的コピー補償制度に関する研究 違法コピーにより、ソフトウエア生産者の利益が減少するという問題を解決するために、ハードウエア生産者に補償金を支払わせる制度(いわゆる私的コピー補償制度)が先進諸国において導入されている。私的コピー補償制度の経済モデルの構築を行い、分析を進めている。
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