本年度は以下の点に関して調査・分析等を行った。(1)健康水準と所得水準・医療費支出水準の関係に関する理論的・実証的分析についての先行研究サーベイを行った。(平均寿命で測った)健康水準と所得水準の間については様々な分析がなされているが、近年分配上の問題が一国全体の健康水準を低めているとの指摘もなされてきている。そこで、この点についてもサーベイを行った。(2)日本の明治から戦前期における医療利用の実態について、制度の観点と数量の観点に分類して調査・整理した。特に、戦前期における公的医療保険が存在しない時期において、医療サービスの利用を目的とした自発的に組織化されたシステム(医療利用組合等)についてその実態と効果等について文献的に検討した。(3)日本の比較対象国としてスリランカ国の医療制度の実態について整理した。(4)GDP及び医療費支出と健康水準の間の関係を分析するための時系列分析の手法を整理した上で試行的な分析を実施した。時系列分析においては最近構造変化を考慮に入れた分析が行われつつある。この手法を用いてより広範な期間について所得水準と健康水準の間の相互関係をすることとした。データについては人口動態統計、大川一司らによる長期経済統計等を利用した。(5)所得水準と傷病構造の関係について考慮に入れた理論モデルの構築を行い、医療費支出方法の効果を分析した。特に、感染症と慢性疾患の発生と所得水準の間の関係を考慮したモデルを構築した。
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