日本経済の停滞が長期化するなか、労働者をとりまく環境も一段と厳しさを増している。特に若年層と中高年層の雇用環境の悪化が著しい。悪化する雇用環境に対して、有効な雇用政策を打ち出すことが急務であろう。 先進国ではプロパテント政策を積極的に推進している。特許権や研究開発を推進することは新市場、新産業の育成につながり、雇用創出が期待されている。もし、特許促進策によって雇用創出効果があれば、雇用環境の改善が急がれる若年層や中高年層の雇用創出にとって有効な政策として機能するだろう。 本研究では特許のような新技術の開発による雇用創出効果の有無を、3つの点に関して実証分析してきた。第一に特許取得活動が雇用創出・喪失にどのような影響を与えているか産業別に分析した。第二に市場全体でみたとき、特許取得活動に活発な産業で雇用創出効果が確認されるか分析した。最後に、90年代半から始まった特許法改正の波が雇用創出効果につながったか分析した。 分析の結果、特許出願件数と雇用には明確な正の相関が存在しないことがわかった。これは産業データでの分析で示唆されている、特許取得活動は雇用に影響を与えないという結果と整合的である。特許出願件数と雇用創出率及び雇用喪失率の相関係数をみると、産業で大きくばらつきが存在し、産業によって特許出願による雇用創出効果が期待できる産業と期待できない産業に分類することかできた。さらに、この差は技術のスピルオーバーのパターンが産業ごとに異なるためである可能性が強いことがわかった。また、90年代の特許法改正は雇用を減少させる効果があったと結論付けられる。 今後の課題として幾つかの問題が残された。第一にデータの性質上、今回の分析は特許取得活動に積極的な企業で、大企業に偏った分析であるため、今回の結果に関しては注意が必要である。第二に雇用創出・雇用喪失と特許出願件数の分析において、雇用創出が期待できる産業の技術の特徴を精査する必要があるだろう。第三に、推定モデルに関して、より精緻に内生性を考慮した推定が必要である。
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