平成15年度科学研究費補助金の交付を受けた研究において、我々は以下のような研究成果を得た。 今年度は、中国における集団所有制郷鎮企業の民営化の効果・帰結を中心に研究がおこなわれた。2度の現地調査をおこない、また企業マイクロデータによる計量経済学的分析もおこなった。 具体的な成果の一つ目は、郷鎮企業民営化の効果が計量的に明らかにされたことである。我々は、中国郷鎮企業マイクロデータを用いたミクロ計量経済学分析により、民営化によって企業の生産性・収益性は改善されたのかどうかを計測した。その結果、生産性の向上はみられないものの、収益性の向上が明確に認められた。また、民営化による生産性向上効果がみられない理由を、効果を各要素に分解することにより探究した。そこでは、生産性向上効果を減殺している最大の要因は、民営化後の企業稼働率低下であること、および純粋な技術的効率性自体は、民営化により向上していることが示された。そして、その稼働率低下の要因は、民営化企業の資金不足にある可能性が高いことも明らかになった。これらの成果については、全国学会で報告がおこなわれており、現在投稿準備中である。また、その成果の一部を取り出し修正付加をおこなった論文が、別掲Shiraishi and Yano (2004)として発表(掲載)予定である。 具体的な成果の二つ目は、現地調査により、郷鎮企業民営化による社内の労使関係および農村内の指導層-一般住民関係の変化が明らかにされたことである。すなわち、郷鎮企業民営化に伴い、社内の経営者-従業員関係・農村内各経済階層間の関係は、従来のコミュニティ成員同士の関係から、資本家(経営者・指導層)-労働者(従業員・一般住民)関係に変質しつつある。これは計量経済学的分析によっても追認されている。これらの成果はワーキングペーパーとしてまとめられ現在投稿準備中である。
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