我が国の医療サービスの供給サイドに特徴的なことは、病気になり、医療機関を受診しようと考える人々が、診療所のみならず、病院にも直接行くことができることである。諸外国に目を転じてみると、例えば、イギリス・オランダなどの様に、最初にかかりつけ医であるGP(General Practitioner)を訪れ、必要がある場合に紹介状をもらい、はじめて病院に通院することができる仕組みを採用している国々が少なからず見受けられる。いわゆるGPシステムと呼ばれる制度である。GPシステムは、患者のスクリーニングにより、診療の必要のない患者を病院に来ないようにすることを通じて、病院での患者の待ち時間を短くし、本当に必要のある患者を病院の診療に回せるという意味で、設備の効率的利用を実現することを可能にする。その反面、本当に病院を必要とする患者に、GP訪問、病院訪問と二重の手間をかけ、かつ治療を手遅れにするコストも負わせる可能性があるという側面も持っている。日本のようなシステムは、患者の診療サービスの生産について、市場に任せて、分業を行おうとするシステムであり、GPシステムは、規制によって分業を行うシステムであると解釈することができる。本研究は、日本のようなシステムとGPシステムのメカニズムを分析し、医療供給サイドの中での診療所と病院の最適な役割分担、診療所と病院の間の市場・組織のあり方及び必要な規制は何かを理論的・実証的に検証した。
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