研究概要 |
本年度においては、まず、アジア各国の銀行システム、破産法・企業再生制度に関する調査を行った。具体的には、日本、韓国、フィリピン、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア、台湾、香港について、特定の倒産企業に関するケーススタディを行い、それを踏まえて、国レベルやアジア全体の議論に対するフィードバックを行った。これらの制度的な調査に加え、Bankscope, Worldscopeなどのデータベースも利用し、財務的な分析も行った。 第一段階としては、上述の9ヵ国の制度を概観し、その中で、日本、韓国、香港の3ヵ国について、詳細な比較分析を行った。予想されたことであったが、日本と韓国は極めて似た制度を持っており、香港では大きく異なった制度であった。前者の類似性は、韓国がドイツ法の影響を強く受けた日本の民法が、戦前に導入され、戦後も、アメリカ法の影響を受けて改正された日本の商法を参考に倒産法制度を整えたことから来ている。香港は、当然のことながら、英国植民地であったことから、英国の制度の影響を強く受けている。しかし、特筆すべきことは、制度上の類似性(日本と韓国、香港と英国)と、実際の運用の類似性は大きく異なっていることであった。たとえば、韓国においては、ほとんど和議が用いられることはなく、香港においても、企業再生の法制度を使うことはなく、企業名を取引するような習慣がもたれていた。また、韓国、香港とも、倒産しても、上場廃止になるわけではないことも判明した。これらの結果は、個別企業のケーススタディから得られたものである。ケーススタディについては、韓国5社、香港2社についてパイロット的に行った。 一方、日本企業に関するケーススタディも同時に行い、2000年度倒産企業すべてのケーススタディを行った。日本については、銀行の融資行動に関する定量的な分析も進め、財務危機に陥った企業に対するメインバンクの融資行動の変化を分析した。 これらを補完するものとして、東京商エリサーチから、海外企業のデータと国内企業のデータを購入し、分析の助けとした。 平成16年度については、まず、上述の韓国、香港に関して行った制度分析、ケーススタディをほかの6ヵ国にも広げる。日本に関しては、銀行融資行動の定量的分析を完成させ、ほかのアジア諸国の銀行の融資行動に関する示唆を得る。
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