研究の目的は、地方財政システムに起因する地方自治体の非効率性を計量的に検出し、その実証結果をもとに、公共部門の制度設計を検討することである。本年度に行った研究の着眼点は、財政の透明性とその効率性との関係である。 近年、公共部門にも企業経営の概念を導入すべきであると言うNPM(公共経営)の議論が盛んである。公共部門を効率的に経営するためには財政責任・説明責任の確立が不可欠で、その責任を確立するのが、財政運営の透明性(情報公開と政策評価)であるとされている。しかしながら、このような議論が盛んな一方で、これらの透明性が実際に事業の効率性に及ぼす効果の経済学的検証はまったくなされていない。そこで本稿の目的は、地方自治体における透明性が、事業の効率性に及ぼす効果を実証的に分析することにある。 フロンティア費用関数を用いた実証分析によれば、行政内部での意思決定ルールの改善を通じて職員を規律付ける制度が地方自治体の費用最小化インセンティブに寄与している可能性が示され、地域住民のモニタリング強化を通じて財政運営の規律付けを図る制度は、必ずしも財政運営の効率化には寄与していない可能性が示された。したがって、財政運営の効率化は、行政内部の職員に客観的なデータで説明できない事業については再検討の必要性を認識させるメカニズムを通じてのみ実現していることが明らかとなった。 今後、これらの情報をもとに地方自治体の行動原理(意思決定の仕組み)を解明することで、公共部門のあり方(国と地方のあり方)に関して提言を取りまとめる予定である。
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