本年度の研究の成果は以下の通りである。 1.研究テーマに関する理論分析の結果を論文に纏め、都立大学と早稲田大学の研究会、および日本経済学会において報告した。 この論文は、証券市場において、証券情報を巡る機関投資家間の駆け引きと投資家の目的関数が、運用収益の相対的パフォーマンスに依存する場合に、機関投資家間の戦略的関係が複雑になり、投資戦略の多様性を生む可能性があること。また、投資戦略の分布が循環的に変化する原因となりうることを進化ゲーム理論を応用して示した。投資家の目的関数が、相対的パフォーマンスに依存する理由として、この論文では機関投資家の心理的バイアスをあげている。 この論文は、working paperとしてインターネットで以下のURLに公開している。 http://pweb.sophia.ac.jp/~s-kawani/extendedGS.pdf 2.英国スコットランドのグラスゴーで開催されたヨーロピアン・フィナンシャル・アソシエーションの年次大会に出席し、ヨーロッパとりわけ英国における行動ファイナンス研究の実情を調査した。大会の約70のセッションのうち、行動ファイナンスに関するセッションは4つ、市場の効率性に関するセッションも含めると5つもあり、行動ファイナンスに対するヨーロッパの研究者の関心の高さを垣間見ることができた。しかし、未だ観察されたデータに対する心理学的な解釈に留まる研究が多く、情報の問題や投資家間の戦略的関係に注目した研究は少なかった。その中で資産価格理論のセッションで報告されたデリバティブ商品の開発に関する研究は興味深いものの一つだった。デリバティブ商品の価格はそれと同じ資産を実現するポートフォリオの価値に等しくなると考えられているが、そのようなポートフォリオが簡単に作れるならばそのような商品は存在する意義が無い。この点に注目して、デリバティブ商品の価格付けの問題を再検討しようとする内容である。こうしたファイナンス理論の新しい論点を見つけることができたのは一つの収獲である。
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