研究概要 |
表記の課題について3カ年にわたる研究を行い、以下の点について明らかにした。 まず、所得連動型教育ローンの先駆的導入例であるオーストラリアのHECSについて、Chapman, Bらの研究を利用して。その結果、高等教育進学率や導入以前の高等教育システム(とりわけ設置者)については異なるものの、HECS導入時のオーストラリアの社会的背景は、昨今の我が国で問題視されている状況と類似していることが明らかとなった。 次に、現在の日本の私立大学の学費水準を前提として、所得連動型教育ローンを導入した場合、どのようなシステムを構築できるのかについて簡単なシミュレーションを行った。その結果、単純なシステムを導入した場合、所得の2〜3%の返済で維持可能なシステムが構築できると推定された。 ここまでの研究成果についてオーストラリアの研究者と意見交換をする機会をもったところ、所得連動型教育ローン導入前の教育財政のあり方が、納税者の意識を形成する重要な要素となっており、システム自体がもたらす結果よりもむしろ、納税者の意識がシステムの導入の可能性に大きく影響を与えるのではないかという指摘を受けた。 この点について、受け入れ側の調査をするだけの準備が整っていなかったため、後藤玲子氏が提示した社会保障システムを評価するための規範的な評価軸を援用して、所得連動型教育ローンが持つ規範的な性質を他の高等教育財政システムと比較することで、その受け入れ可能性についての研究を行った。その結果、規範的な側面から見て所得連動型教育ローンは望ましい性質を備えており、納税者に指示されやすい性格を持っているのではないかと予測される結果となった。 なお、研究の前半部分については、その一部をすでに論文として執筆しているが、投稿予定誌の投稿受付期間との関係で、現在投稿待ちの状態である。
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