本研究の主要な課題は、明治期鉄道業における企業組織の形成・展開を、それを支えた人的資源に注目しながら明らかにすることにある。三ヶ年計画の第一年目である本年は、このような研究を行う場合に不可欠となる人事関係資料および企業組織関係資料の調査と、日本鉄道株式会社の人事異動データベースの作成を集中的に行った。 前者については、まず交通博物館などが所蔵する社報や職員録といった日本鉄道関係資料を調査・収集し、次いでロンドンの国立公文書館(PRO)が所蔵する膨大なイギリス鉄道企業関係資料の予備調査を行った。その結果、日本鉄道関係資料については、一応の目途が立ち、直ちに人事関係データベースの作成に取りかかることができた。一方、イギリスの鉄道企業関係資料については、とくに日本への企業システム移転との関係を重視しながら19世紀後半の鉄道を中心に、その経営(とくに企業組織関係)資料を調査した。ただし今回の調査では、日本への鉄道システムの移転を考える際に重要な位置を占めるスコットランドに、時間の関係で行けなかったため、初期留学生やお雇い外国人といった人的資源に関する資料の面では、収穫が少なかった。今後の課題としたい。 これに対して、後者のデータベース作成の面では、1898年から1906年までの日本鉄道職員の動向を、職員名簿や社報の人事異動欄を入力することで、追跡するという作業を行った。その結果、1898年〜1904年の6ヶ年分の入力が終了し、延べ27000件にのぼる同社の職員データベースが出来上がった。このデータベースを用いて、現在、総務、運輸、汽車運転、機械技術、土木技術、経理といった全職能について、異動、勤続、昇進などに関する包括的な分析を試みている。今後は引き続き、1905〜1906年のデータを入力するとともに、既入力分のデータ・クリーニングを行い、データベースの完成を目指していきたい。
|