研究概要 |
本研究の主要な課題は、明治期鉄道業における企業組織の形成と展開を、人事管理や企業統治、企業金融といった企業の内部構造との関連に注目しながら明らかにすることにあった。3ヶ年計画の最終年度である本年度は、研究期間中に構築した日本鉄道従業員データ・ベースを完成させ、その成果を取りまとめることに努めた。 本研究の最大の成果の一つである日本鉄道従業員データ・ベース(計28,067件)は、1898〜1904年および1906年の8カ年にわたる本社採用従業員のパネルデータであり、日本鉄道株式会社『職員録』1898〜1901年、日本鉄道株式会社『社報』1902〜1904年、日本鉄道株式会社精算事務所『解散慰労金配分顛末報告書』1906年という3系列の資料に依拠して作成した。このデータの特性は、ある個人の各年末における人名、所属部課名、勤務地、職種、身分、賃金(1906年を除く)が連続して判明し、かつ1902年以降は採用、退職、昇給・昇格、改姓名といった事項が月日単位で判明するという点にある。従って本データ・ベースを用いることによって、日本鉄道における職員層の社内履歴を包括的に追跡調査することが可能になった。本研究ではこれを企業組織改革や企業統治の変化といった他の経営諸要素と組み合わせながら考察することを通して、明治期大企業の内部構造を明らかにした。その成果が、「近代企業組織の成立と人事管理」と「所有と経営:戦前期の日本企業」という二つの論文である。 一方、本研究で取り組んだもう一つの課題である鉄道企業組織の国際移転という問題についても、イギリスでの2回にわたる資料調査や榊原浩逸旧蔵資料の収集によって、英米の鉄道企業や機関車メーカーの資料を得ることに成功した。現在、「鉄道企業の国際関係史」というテーマで、その成果の一部を取りまとめるべく、準備中である。
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