16年度の主たる作業目標は次の4点からなる。(1):15年までに収集した史・資料を基に、植民地期インドにおいて、どのように企業組織が生成・発展し、生成・発展した企業組織がどのように企業そのものの成長に影響を及ぼしたのかを、植民地政府の経済政策やインドの要素賦存比率に配慮しながら、明らかにする。(2):(1)の成果の一部を公表する。(3):最終年度に(1)の成果の多くを公表できるよう、補足的な史・資料の収集を行う。(4):成果の海外への発信に向け、インド・イギリスの研究者と意見交換を行う。これら作業目標に対し、16年度を通じ次のような具体的な成果があった。 (1)一定の経済主体の成長に対し資源配分や技術導入の有様がどの程度の影響を持っていたのかを数量的に分析する成長会計分析と15年度までに収集した記述史・資料を通じ、植民地期インドにおいて例外的な成長を遂げたと目されてきたタタ鉄鋼所において、資源配分の効率化や効率的な技術導入を可能とするような企業組織形成・改革が、その成長に大きく貢献していたことを明らかにした。その上で、植民地政策下、多くの問題を抱えながら工業化を進めるインドにおいて、欧米諸国で工業化を担う企業が採用していたものと「基本的に」同様の組織形成・改革の採用が指向されていたことを明らかにした。しかし、企業組織の細部を見ると、そこには植民地政策やインドの要素賦存比率などの影響から、先進諸国では見られないような企業組織が生成し、中にはタタ鉄鋼所の成長を阻害するものが存在していたことも明らかにした。なお、これらの成果は、現在審査中の博士号請求論文(英文)にまとめてある。 (2)(1)の成果うち、博士号請求論文に収録されていないものの一部を、東京大学東洋文化研究所『紀要』に公表した。 (3)(4)インドとイギリスの合計1ヶ月ほど赴き、(1)の成果の公表に必要な補足的史・資料の収集、および当地の研究者と意見交換を行った。
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