本研究では産学連携に伴って生じる大学の内部の組織変革に焦点をあてた。これまで産学連携について国内外で様々な研究が行われてきた。しかしその多くはバイ&ドール法などの一連の法律改正のような法制度の変化や、それに対応した大学の制度づくり(例えばTLOや地域共同研究センターの設立、学内の制度作り)など法律や制度などシステムを取り扱った議論が多かった。しかし産学連携の実態をみてみると、制度やシステムの変更は氷山の一角にすぎず、実際、産学連携に取り組む大学内では制度の効果的運用のための組織変革が求められ、それができない大学は未だ成果を挙げられないである。つまり産学連携を行うためには、大学という組織内部の組織変革を伴うプロセスが不可欠である。本研究では組織変革という観点から、産学連携を分析することを目的とした。 今年度における本研究の成果は二つである。一つはテキサス州の二つの州立大学(テキサス大学オースティン校とテキサスA&M大学)の比較を通じて、産学連携に関わる組織がいかなる経過を経てうまれてきたのか、またそれが地域の中でどのように位置づけられてきたのかよって、その組織はどのくらい機能するかが決定されることを明らかにした。つまりいくら地域的に恵まれた地域といえども、組織が地域に埋め込まれる(embedded))形で生成・発展していなければ機能しないことを明らかにした。とりわけテキサス大学オースティン校の産学連携制度の発展・整備については、既に発表されている。 第二の研究は、国内に関する研究である。工学部教官一人あたりの共同研究開発数が多い、地方に位置する国内3大学の調査を行った。これら大学の共通する特徴としてインフォーマルなネットワークをフル活用して、これまで資源として認められなかった地域に存在するものを地域資源に転換しているという点があげられる(資源化プロセス)。さらに資源化を通じて地域資源を増幅し、それを用いて外部からの資源を吸引する(資源吸引)を行っているということも観察された。これが行われるために、彼らは地域プレーヤーと密接な人的ネットワークを構築していたことも明らかになった。
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