一部の米国製造業は、知識、技能等のコンペテンシー(組織能力)の育成・維持を目指した最新のHRMを採用し、そのような管理手法は生産性、品質等の操業的威果だけでなく、資本回転率、最終利益価(the bottom line)等の財務的成果へも影響を及ぼしていることを発見した。このような高業績を実現するHRMは、米国ではHigh Performance Work Practices(HPWPs、高業績型管理慣行)と呼ばれていた。 一方で、HPWPsを採用し、それが高業績に結びついている日本企業の事例を探してみようとし、主として電機・電子産業の最終組立ラインで用いられている「セル生産」にいきついた。そして、セル生産においてHPWPsは重要であり、そのような管理手法を採用しているセル生産の工場は、高い成果を生み出しているのではないかという仮説を立てて、フィールドワークを実施してきた。そこで得られた事実発見は以下である。 自律性に関しては通説とは異なり、セル生産の現場組織のそれはそれほど高くなかった。一方で、セルリーダーの役割は、セル生産以前の時と比較して重要になっていた。技能の点に関していえば、セル生産では通説通り、その導入以前よりも幅広い技能が要求され、そのための教育訓練が重要であった。しかし、製品のモジュール化度が高い場合は、それほど高い技能は要求されていなかった。モチベーションに関しては、依然として年功型の報酬制度を採用している工場が多かったが、それに加えて改善に対する報酬、チーム型の報酬、及び「やりがい」などの内的報酬等も必要とされていた。自律性、技能、モチベーションに関するHRMに加えて、セル生産では「学習」に関するHRMが重要であった。それは、セルラインがそれ以前の大規模投資による自動化ラインほど固定的でないので、より効率的なラインにするために改善活動等の学習の機会が重要だからである。そして、このようなセル生産に適したHRMは、セル生産の効果、つまりQCD(品質、コスト、納期)等を改善すると期待される。
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