本研究は、産業集積の機能が、ベンチャービジネス(以下、VB)の競争優位確立に寄与する可能性を解明するものである。そこで、15年度は、主に以下のような調査・研究を行った。 1.産業集積や競争戦略に関する先行研究の調査 2.わが国における産業集積の実態調査 3.産業集積のコアとなりうる機関(インキュベータ、大学、自治体など)の調査 以上の調査・研究を通じて得られた知見の中で特筆すべきであると思われる点は、産業集積はその内部に存在する企業間関係の在り方によって、保有する機能に相違が見られるということである。つまり、企業間関係が希薄から緊密へ、垂直から水平へと発展的に変化するのに伴い、段階的に(1)企業間競争促進機能、(2)分業による職能補完機能、(3)取引コスト低減機能、(4)シナジー効果創出機能、さらには、以上の機能が相まった結果としての(5)イノベーション促進機能、(6)ステークホルダー誘因機能が生じるのである。この事実は、産業集積がVBの必要とする経営資源を補完することを通じて競争優位の確立に寄与するか否かは、当該集積の発展段階に依存するということを意味している。 さらに、今年度の調査から得られた示唆として、機能的な産業集積には一定の風土が存在するということがある。ここでいう風土とは、企業をはじめとした関係諸機関の間に共通の価値観や信頼関係が構築されている状態を意味する。これは、社会学や経済学の分野におけるソーシャル・キャピタルに該当あるいは類似する概念であると思われるが、その詳細な内容や機能、および、それがVBの競争優位確立に与える影響については未だ明らかになっていない。したがって、16年度は、産業集積におけるソーシャル・キャピタルをテーマとして研究する予定である。
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